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東京高等裁判所 昭和24年(新を)2508号 判決

控訴人 被告人 五味九一郎

弁護人 丸三郎

検察官 田中政義関与

主文

原判決中被告人五味九一郎に関する部分を破棄し同被告人に対する強盗幇助賍物收受同故買被告事件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人丸三郎の控訴趣意書第一点について。

本件起訴状による検察官は公訴事実第四(1) において被告人五味九一郎は昭和二十三年七月二十二日被告人岡久重夫及び原審相被告人菊地多門等が強盗をなす情を知りながら同人等に対し東京都杉並区天沼二丁目四百三十四番地田口貞之助方を指示案内し以て同人等の強盗行為を容易ならしめて幇助したとの事実を摘示し同(2) において被告人五味は前同日肩書自宅において右菊地より同人及び被告人岡久重夫等が強取して来た小紋縮緬女物袷一枚外衣類等六点をその情を知りながら交付を受けて賍物の收受をしたとの事実を摘示して居ること又原審第二回公判調書によれば同公判において検察官は裁判官より訴因変更の許可を得て起訴状記載の公訴事実第四の(1) 及び(2) を択一的関係において起訴する旨述べたことも所論の通りである。而して刑事訴訟法第二百五十六条に謂わゆる択一的起訴とは基本事実を同じうする数個の訴因を摘示してその何れか一につき審判を求むる趣旨と解すべきであるところ強盗を幇助した者がその賍物を收受した場合には強盗幇助罪と賍物收受罪とが各別個に成立するのであるから両者を択一的関係において起訴することは許されない。従つて本件の如く検察官が起訴状に右二罪を併記しながら公判において両者を択一的起訴に変更する旨陳述したとしても裁判所は固よりこれに拘わることなくその適否を判断し両者につき各別に審判しなければならないのである。然るに原判決を見ると前掲賍物收受の事実はこれを認定判示しているけれども前記強盗幇助の点については所論の通り何等判示するところがない。これ畢竟刑事訴訟法第三百七十八条第三号所定の審判の請求を受けた事件について判決をしない場合に該当するものと云わざるを得ないので論旨に理由があり原判決中被告人五味九一郎に関する部分は爾余の論旨に対する判断を俟つまでもなく既にこの点において破棄を免れない。

以上説明の如く被告人五味九一郎の本件控訴は理由があるから刑事訴訟法第三百九十七条、第四百条に則り原判決中被告人五味九一郎に関する部分を破棄し同被告人に対する前掲被告事件を原裁判所に差し戻すべきものとし主文の通り判決する。

(裁判長判事 稻田馨 判事 坂間孝司 判事 三宅多大)

控訴趣意書

第一点原審判決ハ刑訴第三七八条第三号ノ「審判ノ請求ヲ受ケタル事件ニツイテ判決セス」ニ該当スル(検察官ニヨリ刑訴第二五六条第五項ニ所謂択一的起訴ヲ誤解セル訴因ノ変更ガ為サレタル上原審判決亦一部無罪ノ判決ヲ為スベキヲ脱落シテ居ル)

即チ検察官ハ被告人五味ニ対シ公訴事実第四、(1) ニ於テ強盗本犯菊地等ヲ現場ニ案内セリトノ事実ヲ摘示シテ強盗幇助罪ヲ訴因ニ構成シ(2) ニ於テ同日右菊地ヨリ盗品ノ一部ヲ貰受ケタル事実ニ付賍物ノ一部ヲ貰受ケタル事実ニ付賍物收受罪ノ訴因ヲ構成シテ併記シタ然ルニ(1) ノ強盗幇助ノ共犯関係ガ成立スルトナス以上ハ(2) 賍物貰受行為ハ共犯者間ノ内部分配事後処分トシテ(1) ニ吸收セラレ別個ノ犯罪ヲ構成セザルコトハ学説判例ノ一致スルトコロデアリ又(2) ノ賍物收受ノミ認定セラレザル場合ハ(1) ハ(2) ノ前行為デアリ裁判官ニ予断ヲ抱カシメルモノトシテ起訴状ニ掲記スベカラザルモノデアツテ両立スベカラザルモノデアルト解スル。

第一回公判期日ニ於テ当弁護人ヨリ検察官ニ対シ右趣旨ニヨリ訴因及罰条ノ変更撤回ノ意思ノ有無ヲ確メタル処検察官ハ解答ヲ次回ニ留保シ(第一回公判調書参照)第二回公判期日ニ於テ裁判官ヨリ訴因変更ノ許容ヲ得テ「起訴状第四ノ(1) 及(2) ハ択一的関係ニ於テ起訴スルト述ベタ。

然ルニ本件起訴ノ如キ場合ハ刑訴二五六条ニ許サレタル択一的訴因ニハ該当シナイ何トナレバ同条ニ所謂択一的訴因トハ特定セル同一ノ基本事実ヲ数個ノ訴因ニ法律的ニ構成シテ其ノ数個ノ訴因ヲ択一的ニ記載スルコトヲ許サルルノ謂デアリ例セバ同一ノ基本事実ニ付テ詐欺罪ト恐喝罪ノ二個ノ訴因ニ構成シテ其ノ孰レカデアルト記載表示スル如キデアルト解スル。

本件ノ如ク二ツノ別個基本事実ニ対シ夫々ニ強盗幇助罪及賍物收受罪ト訴因ヲ構成併記シテ孰レノ基本事実カニ於テ有罪タリ得ベシトノ起訴ノ如キハ一般用語ニ於ケル「択一的」デハアリ得テモ刑訴二五六条ニ所謂択一的起訴デハナイ斯ル起訴自体ガ或ヒハ違法ナラズトスルモ二個ノ独立セル訴因ノ併列的起訴ト解スルノ外ハナク従ツテ裁判官ハ其ノ個々ニ対シテ判断スベキデアル。然ルニ原審判決ハ被告人五味ニ対シ(2) ノ賍物收受ノ事実ヲ証拠ニ依リ認定(他ニ(3) ヲ賍物故買ト認定セルニ此処ニテハ所論ノ外)シタルノミニテ(1) ノ強盗幇助ノ訴因ニ就テハ判決シテ居ナイ(原審判決書参照)

(1)  ノ訴因ニ付テハ被告人ノ訴因中法定刑最モ重キモノニシテ検察官求刑ノ基準トモナルモノニシテ而モ冐頭陳述ニ於テ被告人弁護人孰レモ犯罪不成立ヲ主張セルモノ(第一回公判調書参照)デアリ判決ニ於テ(1) ガ認定セラレザルコトハ証拠不充分ニ依ルカ将タ法律解釈ニ依ルカ最大ノ関心ヲ払フトコロナルニ拘ラズ主文ニ於テモ無罪ノ言渡ヲ為サズ理由ニ於ケル説明判示モナイ。

要スルニ原審判決ハ起訴セラレタル事件ノ一部ニ付判断ヲ脱洩セルモノトシテ破棄ヲ免レナイモノト信ズル。

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